ここは警視庁。

 

その刑事課の一室に、重い空気が流れている。

 

当然軽い空気が流れるような場所では無いが、いつもと緊張感が違う。

 

何故なら普段事件などが起こった場合、刑事課長を中心に会議がある。

 

だが、今回その中心にいるのは・・・・・・警視総監だ。

 

ただ事ではない。そんな空気が、この場の空気を張り詰めたものにしている。

 

民間協力者として、刑事課をサポートしているリスティにも自然と緊張が走った。

 

もちろん、ただ場の空気に萎縮したからではない。

 

警視総監から流れてくる負の感情に、リスティは事の重大さを誰よりも察していたのだ。

 

 

「みんな・・・・・・楽にしてくれ」

 

警視総監の言葉は、やはり重そうだった。

 

楽にしてくれとは言われたものの、誰一人身じろぎもしない。

 

「国内に、国際テロリスト犯が侵入した。しかも複数だ」

 

半年前にも、『龍』が日本に侵入したことがあり、そのときもこのような感じだった。

 

やはり・・・・・・という顔が皆の顔に浮かぶ。

 

前回は、香港警防隊の力を借りて、ようやく捕まえたのだ。

 

今回はそれが複数・・・・・・

 

重い雰囲気が場を支配する。

 

だが、その次に警視総監から出た言葉に、リスティは耳を疑った。

 

 

 

「君たちは、一切手を出さないでくれ。これは命令だ」

 

 

 

寮に帰ったリスティは、自室の窓から紫煙を燻らせる。

 

・・・・・・納得がいかなかった。

 

警視総監の話では、そのテロリストをまとめている人物が『大物』らしいのだ。

 

口には出さなかったが、国際的な圧力がかかったのだろうか。

 

とはいえ、精鋭ぞろいの警視庁本部に所属する人間にさえこれだ。

 

民間協力者の自分が尋ねたところで、答えてくれるはずも無い。

 

それでも腑に落ちないリスティは、携帯を取り出してメモリを呼び出す。

 

美沙斗の番号が表示されて、指を止めた。

 

しばらくディスプレイを見つめると、その表示を消した。

 

(私情を挟むのは良くないよね・・・・・・)

 

仕事ではなく、興味本位で尋ねるのは美沙斗に失礼だし、迷惑になる。

 

そう考えて、リスティは携帯を降ろした。

 

 

 

 

「祥子さん、最近何か変わったことは起きてないか?」

 

乃梨子を残して部屋を出た恭也と祥子は、祥子の部屋に移動していた。

 

「いえ、これといって特には・・・・・・。もしかして、何かあったのですか?」

 

「ああ。どうやら・・・・・・俺たちを狙うやつがいるみたいだ」

 

祥子の顔に戦慄が走る。

 

「とりあえず、このことをリスティさんに報告する。少し待っててくれ」

 

恭也は一度廊下に出て、携帯を取り出した。

 

携帯を操作し、リスティの番号を見つけて電話をかけた。

 

コール音が鳴る前に電話をとったリスティに、恭也は少し戸惑ったが

 

『やあ恭也。君から電話をしてくるなんて珍しいね』

 

「はい。夜遅くに申し訳ないです。実は、少し困ったことがありまして・・・・・・」

 

『困ったこと?なんだい、女性がらみのことなら相談に乗るよ?』

 

リスティは、いつものようにからかうが、声のトーンが低い。

 

「リスティさん?何かあったんですか?」

 

『え?ああ。ちょっとこっちも色々あってね・・・・・・』

 

「そうですか・・・・・・」

 

珍しく元気のないリスティに、話していいのか一瞬考えるのだが

 

「実はですね、何者かが俺たちを狙っているようなのですが・・・・・・」

 

『えっ!?ちょっと待って、恭也。君が狙われてるのか!?』

 

「心当たりがあるんですか!?」

 

リスティの反応に、恭也は食いつくように質問した。

 

『ああ。実は、国際テロリストが日本に入ったという情報があってね。

詳しくは知らないが、君を狙っているのはそいつらかもしれない』

 

テロリスト・・・・・・その言葉を聞いて、恭也は頭が締め付けられそうになった。

 

自分の父、そして一族を死に追いやったのも、テロだ。

 

『恭也、真雪から聞いたけど、君は今リリアンにいるんだよな?』

 

「ええ。午後だけですが」

 

『わかった。警察はこの件にノータッチだから、僕個人で少し手を回してみる』

 

「・・・・・・ありがとうございます」

 

『水臭いな恭也、僕は君に何度も助けられているんだ。このくらい何でもないよ』

 

リスティは、「今度シュークリームをご馳走してくれ」と、電話を切った。

 

 

テロリスト・・・・・・

 

自身の主義主張のために、何の関係もない人間を巻き込む。

 

何のために自分を狙うのかは分からない。

 

だがそんな連中なら、自分を消すために周りの人間を平然と巻き込むだろう。

 

(そんなことは・・・・・・俺がさせない・・・・・・!)

 

 

 

「恭也くん・・・・・・」

 

恭也はそれで初めて、目の前に乃梨子がいたことに気がついた。

 

「なんだ、乃梨子」

 

「何があったの・・・・・・?恭也くん、今すごく怖い顔してた」

 

「・・・・・・悪いな、元々そういう顔なんだ」

 

だが、いつものからかう口調ではなく、重々しく感じる。

 

「違うよ!そんなことじゃない・・・・・・。恭也くん、何を隠してるの?」

 

「どうしたの、二人とも・・・・・・?」

 

そのときドアが開いて、中から祥子が出てきた。

 

「いや、乃梨子が『俺の顔が怖い』なんて言うから・・・・・・」

 

「紅薔薇さま・・・・・・何があったんですか?」

 

その言葉に祥子は恭也のことを見るが・・・・・・

 

「いや。庭に変なヤツを見つけたからな・・・・・・俺の勘違いだったみたいだ」

 

恭也の答えに、祥子は

 

「ええ。使用人が庭に出てたのよ。それを恭也さんたら・・・・・・」

 

祥子は話を合わせるが、乃梨子の顔は険しいままだ。

 

「私には話せないことなんですか・・・・・・?」

 

それに祥子は、一瞬どう答えたらいいか戸惑う。

 

だが・・・・・・

 

「ああ。悪いが話せない・・・・・・」

 

恭也は乃梨子に、しっかりと目を見たまま答えた。

 

「わかりました・・・・・・」

 

乃梨子は強くこぶしを握り、下を向いたまま何かに耐えるように部屋へ戻った。

 

 

 

今回の相手は危険だ。

 

しかも、みんなには関係ない、俺個人のことだ。

 

だから、出来るだけ関わらせたくは無い。

 

その代わり、約束する。

 

絶対に、みんなのことは護る・・・・・・。

 

 

 

例え、この身と引き換えになろうとも・・・・・・

 

 

 

「恭也さん・・・・・・」

 

「もう遅い・・・・・・。そろそろ寝よう」

 

そうして振り向いた恭也の顔は、少し寂しそうな笑みだった。

 




何やら大事になっているような。
美姫 「国際的なテロリストたちが日本へ」
その目的は、本当に恭也なのか?
美姫 「緊迫した感じになってきたわね」
果たして、次回はどうなるのか!?
美姫 「次回も非常に楽しみに待ってますね」
ではでは。



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