翌日・・・・・・。

 

1年椿組は、騒然となっていた。

 

今まで、どの1年生にも目を向けなかった黄薔薇のつぼみ。

 

それが、9月に転校してきたばかりの生徒と親しげに話をしていたのだ。

 

中学から持ち上がってくる生徒が多い中、クラスはその話で持ちきりだった。

 

乃梨子は、そんなクラスの雰囲気にかなり辟易していた。

 

と言うのも、まず月咲はあの人を寄せ付けないオーラを持っている。

 

その上転校生なので、幼稚園から温室で育ってきた生徒にとってかなり話し掛けづらかった。

 

そのため、その手の質問は全て乃梨子にかかってくるのだ。

 

可南子も乃梨子と同じく高校受験組なのだが、彼女は人を撒くのが上手い。

 

瞳子は、祐巳との口論を見られた経緯から、クラスで少し浮いていた。

 

よって、消去法・・・・・・と本人は考えているが、乃梨子は既にクラスの中心的存在なので

 

『月咲さんはもう、ロザリオを受け取られたのですか?』

 

だの

 

『あのお二人はどこでお知りあいに・・・・・・?』

 

と、休み時間の度に人が押し寄せているのだ。

 

 

 

昼休み、館へ避難してしまおうか、と思っていると・・・・・・

 

教室の前に、見知った顔を見かけて・・・・・・

 

(げっ!)

 

と、思わず上げてしまいそうになった声を飲み込んで

 

(まずい・・・・・・新聞部がかぎつけて来たのか)

 

視線の先には、元部長の築山三奈子がいた。

 

このままでは、月咲が新聞部の手に落ちるのは火を見るより明らかだ。

 

なんとかしないと・・・・・・そう思って月咲を外へ逃がそうと思ったのだが

 

「あら、二条乃梨子さん。ごきげんよう・・・・・・ちょっとよろしいかしら?」

 

(よろしくありません)

 

そう答えたかったが、相手は曲がりなりにも上級生。

 

何を聞かれるか判りきっていたので、場所を移そう、と言うが

 

「いいえ、今回は白薔薇のつぼみに用があるのではなく・・・・・・」

 

そう言って、中を見ながら

 

「黄薔薇のつぼみと親しくされているという方に用がございまして」

 

「あの、私に何か御用でしょうか・・・・・・?」

 

なんと、本人がわざわざやってきてしまった。

 

「ああ、あなたが月咲さんね。初めまして、私は三年松組の築山三奈子です」

 

よろしくね、と三奈子は手を差し出した。

 

月咲もその手を取ると、「それで、どのようなご用件でしょうか・・・・・・」と聞いた。

 

乃梨子が『その人はまずい!逃げて〜〜〜〜〜』と心の中で叫ぶが、聞こえるはずも無い。

 

「話が早いわ。実はね、私は・・・・・・・」

 

 

 

「あら、三奈子さまではないですか、ごきげんよう」

 

 

 

後ろから、とても優雅な声で挨拶をした人物がいた。

 

三奈子が振り向くとそこには

 

「月咲ちゃんに何か御用なのですか?」

 

と、にこやかに微笑む黄薔薇のつぼみこと、島津由乃が立っていた。

 

由乃から発せられる、ただならぬプレッシャー。

 

一瞬三奈子はひるむのだが、それで引いてしまうヤワな性格ではない。

 

「ええ。今噂になっていることがありまして、そこのところをはっきりさせた方がいいかと思ったのよ」

 

「へぇ、例の小説でも再開されるのですか?黄色い花びら、とでも銘打って」

 

「うっ・・・・・・」

 

「それとも、ご自分の写真を使ってイメージ写真でも挿入しようとでもいうのですか?」

 

由乃は、三奈子の古傷を的確に指していく。

 

それもそう、由乃は新聞部の無責任な報道によってかなりの被害を被ったのだ。

 

今は、部長が真美になってからそう言うことは無くなったが、三奈子の行動には信用が置けなかった。

 

「もしまだゴシップ記事を勝手に書かれるようなことがありましたら・・・・・・」

 

「わ、わかったわよ・・・・・・。でも、妹が出来たら教えて頂戴よね。そのときは正式に取材に行くから・・・・・・」

 

そう言い残して、三奈子はすごすごと退散していった。

 

「ふぅ・・・・・・。さ、お腹が空いた・・・・・・。さっさと館へ行くわよ」

 

由乃は、乃梨子と月咲の肩を抱いて館へ向かった。

 

「あの、さっきの方はそんなにまずい人だったのですか?乃梨子さんが逃げてって・・・・・・」

 

そこまで言ったところで、月咲ははっとした顔をして

 

「由乃さまが、かなり強い口調でおっしゃられてたので・・・・・・」

 

と、なぜか言い直したことに疑問を感じたのだが

 

「うん、あの人は新聞部の前の部長で・・・・・・」

 

月咲に、三奈子がやったことを端的に話す。

 

「それで、私のことを探していたのですね」

 

「そう。多分私が警戒してると思って、月咲ちゃんに取材しようとしたんでしょうね」

 

油断も隙も無い・・・・・・、そう由乃は不機嫌そうにため息をついた。

 

「さ、この話はおしまい!とっとと薔薇の館で御飯食べましょ!」

 

そう言って、二人を引きずるのだが、片方から引っ張られた。

 

というより、月咲が動かなかっただけなのだが・・・・・・

 

「あの、私も・・・・・・ですか?」

 

「そうよ。それとも、あんなことがあった後で教室に戻るつもり?」

 

確かに。今教室に戻ったら、質問攻めは避けられないだろう。

 

現に瞳子も可南子も教室から出てこないところを見ると、捕まっているのかもしれなかった。

 

「わかりました・・・・・・。ご一緒させていただきます」

 

相変わらず無表情で、由乃の言葉に従った。

 

 

 

(あれ、私・・・・・・『逃げて』って口にしたっけかな)

 

もしかしたら、無意識に口に出てしまったのか。

 

そうだとすると、この後の新聞部の取材が恐いなぁ・・・・・・。

 

乃梨子はそんなことを考えながら、二人に続いて館へ向かって足を進めたのだった。




果たして、その真相は…。
美姫 「月咲は、乃梨子の表情からそれを読み取ったのか…」
それとも、乃梨子が知らずに口にしていたのか…。
美姫 「それとも…」
まだまだ謎の多い月咲。
美姫 「今後、どんな展開が待っているのかしらね?」
非常に楽しみに次回を待ってます!
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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