『それにしても・・・・・・人手が欲しいわね』

 

 

 

始まった。3年生の妹イジメである。

 

紅薔薇さまこと祥子さまは、妹の祐巳さまに聞こえるようにつぶやいた。

 

祐巳さまは、カップを持っていた手が一瞬びくっと震えた。

 

「そうね。でも祥子はいいじゃない。候補生が二人もいるんだし・・・・・・」

 

ねえ、志摩子?と、黄薔薇さまこと支倉令さまも志摩子さんに振った。

 

志摩子さんは困った顔をして、言葉の本来の該当者である由乃さまを見た。

 

見ると、由乃さまはプルプル震えている。こちらは祐巳さまのように、

姉の言葉に恐縮してしまうような人ではない。

 

「何よ令ちゃん!なんで私に直接言わずに志摩子さんに振ってるのよ!」

 

「由乃・・・・・・学校内では」

 

「お姉さま、でしょ?判ってるわよ・・・・・・」

 

いや、わかってなかったから突っ込まれたのだが・・・・・・と、私は心の中だけで冷静に突っ込みをいれた。

 

山百合会の生徒会は、本来1〜3年の三薔薇の姉妹で構成された、最大9人の組織だ。

 

その組織のうち、白は3年が、紅と黄は1年生がいない。

 

よって、事実上6人で9人分の仕事をしていることになる。

 

2年生で白薔薇さまとなっている志摩子さんは、既に私という妹がいる。

 

だが、祐巳さまはと由乃さまは、まだ妹を持っていない。

 

瞳子と可南子さんが、祐巳さまに連れられてお手伝い、という名目で現在は仕事を手伝ってくれるのだが、その後を考えると、私としても正直気が重い。

 

「乃梨子ちゃんもそう思うわよね?」

 

そんなことを考えていると、祥子さまが私に話を振ってきた。

 

まいったなぁ・・・・・・今思っていたことをそのまま言うのは、由乃さまの目が恐すぎる。

 

かといって、ごまかすのも今度は、薔薇さまたち(志摩子さんは除く)の追求が恐い。

 

自分のこめかみ辺りを、冷たい汗が流れるのを感じた。

 

「申し訳ございません、そろそろ花寺の方が見えられる時間と思われますが」

 

志摩子さんは、これしかない、というタイミングで助け舟を出した。

 

時計を見ると、4時まであと5分というところまで迫っていた。

 

「そうね。悪いけど、志摩子と乃梨子ちゃん・・・・・・迎えに行ってもらえる?」

 

祥子さまは、令さまと目配せして笑いを浮かべていた。

 

それがすごく気になったのだが、きっと私たちがいない間に妹を問い詰めるからだろう、と推測して、志摩子さんと連れ立って館を出た。

 

 

二人のそうした顔の原因は、別のところにあることをみんなは知らない。

 

 

志摩子さんと二人で、銀杏並木を抜けていく。

 

所々、銀杏が落ちているのを志摩子さんはうれしそうに見ていた。

 

この時期になると、志摩子さんはここで銀杏を拾って家に持ち帰るらしい。

 

初めて見たときは、思わず絶句した、と祐巳さまは言っていた。

 

でも、志摩子さんがうれしそうに銀杏を拾っていたら、私もきっと同じように集めるかもしれない。

 

銀杏を靴で踏まないように、なるべく避けながら歩いていくと、正門が見えた。

 

花寺の方々の姿が見え、待たせていたことに少し悪い気がした。

 

だけど、その中にいる男性の一人に私は疑問を持った。

 

なぜなら、その人は私服を着ていたからだ。

 

もしかしたら、あの人が噂の『光の君』だの、『銀杏王子』だの言われている迷惑な人なのか。

 

だが、噂では祐麒さんとは仲が悪いとのことなのだが、すごく楽しそうに話している。

 

思わず私は首をかしげると、志摩子さんが『あっ!』と声をあげた。

 

「え、どうしたの志摩子さん!?」

 

私はびっくりして志摩子さんの方を見ると・・・・・・

 

「うそ・・・・・・でも・・・・・・やっぱり・・・・・・」

 

顔に手を当てて、その私服の男性のことを見ている。

 

その表情は、なんとも表現しがたい顔をしていた。

 

 

いや、それは不適切だろう。

 

ただ私がそれを認めたくなかったのだと思う。

 

志摩子さんのその目は潤んでいて、そして愛する人を見るような目であの人を見ていたのだから・・・・・・

 

 

駆け出していく志摩子さんを見て、私の胸がちくり、と痛んだ。




おおー、いい所で!
美姫 「うぅぅ、続きがとっても気になるわ」
果たして、志摩子の態度を見た後の乃梨子はどんな態度を取るのかな。
美姫 「色々と楽しみだわ」
ああ〜、続きが、続きが〜!
美姫 「次も非常に楽しみに待ってます!」
ああ〜、続きをプリ〜ズ〜!



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