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「祐巳・・・・・・乗り物に乗るためにお金がいるの?」

 

「はい。電車に乗るためには、切符というものをあそこの券売機で購入しないといけません」

 

祐巳が祥子に電車の乗り方を教えている。

 

昨日、あのあと祐巳は祥子に謝り、本当は内緒でチョコレートを作って祥子に渡したかったことを話した。

 

祥子は、そうだったの、と言って祐巳の頭を撫でた。

 

祥子の目は少し赤くなっていて、令が「祥子ったら、祐巳に嫌われたって泣いてたのよ」とバラすと、令に祥子の雷が落ちた。

 

そんなわけで、仲睦まじい姉妹が復活したわけなのだが・・・・・・

 

(なぜこうなったんだ?)

 

恭也は、電車に一緒に乗り込んだみんなを見て思った。

 

 

 

 

 

それは、祥子の雷が令に落ちたとき、話題を変えるために話したことから始まった。

 

「なあ赤星。俺は明日一度家に戻ろうと思うんだが一緒に行かないか?」

 

「ん?まあ別に構わないけど、どうしたんだ?」

 

「2週間放っておいた盆栽が気になったんだ・・・・・・」

 

その言葉に、一同の目が恭也に向く。怒られて小さくなっている令、さらにキレている祥子までもが。

 

「うちに、他に盆栽の世話を出来るやつはいないし・・・・・・もしかしたらさびしがっているんじゃないかと思うとな」

 

館は静まり返った。そして次の瞬間・・・・・・

 

「あははははははは!!」

 

聖の笑い声が響いた。

 

それを皮切りに、由乃・赤星・藤代が大笑いをした。

 

他のメンバーも、笑いをこらえようとするが我慢できず、あの志摩子や祥子までが目に涙を浮かべて笑っていた。

 

恭也は、笑われて憮然としながら

 

「何がそんなにおかしいんだ」

 

と、拗ねると

 

「だって・・・・・・だって、恭也がそんなに可愛いこと言うなんて・・・・・・ぷくくっ!」

 

聖は笑いすぎて咳き込み始めている。

 

「・・・・・・とにかく、俺は明日いったん帰る・・・・・・」

 

そういうと、志摩子は

 

「恭也さん、盆栽ってどんなものを育ててるのですか?」

 

「ん?えっと基本的には松柏盆栽と花もの盆栽だ。今あるのが五葉松に檜・・・・・・

花ものは梅と皐月、あとは雑木盆栽でイチョウと楓がある・・・・・・。それと、桜だ」

 

「桜もあるんですか?桜って確か育てるのがすごく大変だって聞きましたけど・・・・・・」

 

「ああ。桜は特に大変だ。俺が心配してるのはそれが一番の理由だ」

 

「そうなんですか・・・・・・それは見てみたいですね」

 

「志摩子は盆栽をやるのか?」

 

「いえ。父が盆栽をやっていまして・・・・・・。暇さえあればいつも庭にいますね」

 

「そっか。それも見てみたいな・・・・・・」

 

「おーい、二人とも帰ってこーい」

 

聖が盆栽談義で盛り上がる2人の間に手を広げて上下させると、2人ははっとした。

 

「でも、そうだね。一度盆栽ってじっくり見てみたかったんだ」

 

と、いうことで・・・・・・と聖は言うとみんなを見回して

 

「はい、明日恭也の家に一緒に行きたい人、手あげてー!」

 

 

 

 

(で、全員こうして来たというわけか・・・・・・)

 

「あの・・・・・・恭也さん、ご迷惑でしたか?」

 

「ああ、迷惑だ」

 

聖は志摩子の声色を真似て恭也を上目遣いに見てたずねたが、恭也の即答に頬を膨らました。

 

「ひ〜ど〜い〜、志摩子が同じこと言ったら『い、いや。そんなことはない』っていうのに〜」

 

「・・・・・・聖、右を見てくれ」

 

「ん?」と聖は右を向いた。そこには、志摩子の笑顔が聖に向けられていた。

 

「し、志摩子・・・・・・?」

 

「お姉さま?どうなされたのですか?」

 

志摩子は笑顔だ。だが、ものすごいプレッシャーを感じる。怖い。笑顔が怖い。

 

「恭也さん、私、少しお姉さまとお話がしたいのですがお借りしてもよろしいですか?」

 

相変わらず志摩子は笑顔だ。それはまるで天使のようだ。

 

「そうか、これを天罰と言うのか。聖、ありがとう。参考になった」

 

聖は、席の反対側に連行されていった。この車両に恭也たち以外がいないことが唯一の救いか。

 

恭也は、志摩子の方を見ないようにして正面に顔を向けた。

 

反対側の席はボックス席になっており、黄薔薇ファミリーに赤星が組み込まれている。

 

令の作ってきたクッキーに舌鼓を打っているようだった。

 

 

 

「あ〜あ、私も料理が出来たらなぁ・・・・・・」

 

由乃が令のクッキーをほおばってそう言った。

 

「由乃ちゃんも令に教わればいいのに」

 

江利子がそう言うと、由乃は「だって」、と言って令の方を向いて

 

「令ちゃんったら『私が作れるから由乃は覚えなくてもいいでしょ』って、台所にすら立たせてくれないんですよ?」

 

「覚えなくてもいいじゃない。第一、包丁とかで手を切ったりおなべで火傷したりしたらと思うと心配なのよ」

 

「それじゃあ私は何も出来ないじゃない!裁縫するときだって針が刺さったら危ないって取り上げて、その針で令ちゃんは指を刺したじゃない」

 

「なんでいきなりそんなにやろうとするのよ・・・・・・」

 

令が困った顔で言うと

 

「だって私が結婚したとき、何も出来ないお嫁さんなんて嫌だもん」

 

「ぶっ!」

 

ちょうど、缶の紅茶を飲んでいるときに由乃の爆弾発言を聞いて、令は紅茶を噴き出した。

 

赤星はそれをモロに浴びてしまうが、さして気にした様子もなくタオルを取り出すと

 

「早く拭かないと染みになっちゃうよ、令」

 

赤星は自分にかかった紅茶に目もくれず、令のジーパンを拭き始めた。

 

「ゆ、勇吾さん・・・・・・。私は大丈夫ですからまずご自分を・・・・・・」

 

「令は女の子なんだから、服が汚れるとまずいだろ」

 

そう言って令の服についた紅茶を吸い取ると、赤星は満足げに令を見た。

 

その顔に令は真っ赤になると、ようやく気がついたかのように赤星の服を拭き始めた。

 

「あ、令・・・・・・ハンカチ汚れるって」

 

「いいんです、それより・・・・・・すみませんでした」

 

「いや、気にしなくていいさ。サンキュ」

 

令の頭を撫でる。ミスターリリアンと称される令だったが、令の心は乙女のようにときめいていた。

 

「・・・・・・令ちゃんのばか」

 

拗ねた由乃のつぶやきに、江利子はご満悦だった。

 

 

 

 

「祐巳、どうしたの?難しい顔をして」

 

祐巳は腕を組んで考え事をしていると、祥子が心配して声をかけた。

 

「実は、最近弟の様子がおかしいんです」

 

「弟って、祐麒さんのこと?」

 

「はい。なんか、ぼーっとしてることが多いんです」

 

「そう・・・・・・。体調を崩してらっしゃるの?」

 

「うーん、そういうわけでは無いと思うのですけど・・・・・・」

 

「なに、二人ともそんな顔をして」

 

「なんか悩み事あるのなら、お姉さんに相談しなさい」

 

蓉子と藤代が声をかけた。

 

祐巳は、最近祐麒の様子がおかしいと2人に言うと

 

「まさか・・・・・・柏木くん、祐麒くんに何かしたんじゃないでしょうね・・・・・・」

 

そうだったらただじゃ置かないわよ、と恐ろしい発言をしていると

 

「ねえ、祐巳ちゃん。祐麒さんって食欲落ちてなかった?」

 

「あ、はい。なんか半分くらい食べたらすぐ部屋に戻ってました」

 

「で、鏡をよく見てなかった?」

 

「そうですね。鏡を見てため息をしてましたね・・・・・・。ちょっとショックでした」

 

祐巳は、弟と基本的に顔の作りは同じなので、祐麒のため息の原因を思うと自分も悲しくなった。

 

「そっか〜。ふんふん、そういうことなのね」

 

蓉子はすごくうれしそうに笑う。

 

取り残された2人(藤代は既に柏木を犯人と思い込み闘志を燃やしている)は、蓉子に

 

「お姉さま、何かわかったのですか?」

 

祥子が聞くが、蓉子は「そのうちわかるわよ」と言って話を打ち切った。

 

(そっか・・・・・・両想いなのね、祐麒さんと由紀は)

 

 

 

蓉子がそう考えている間も、聖は志摩子にこってりと絞られていた。

 

「だいたいお姉さまは・・・・・・」

 

(志摩子・・・・・・成長したのはうれしいけど・・・・・・これは辛いわ)

 

「聞いているのですか、お姉さま!」

 

「はいぃ!しっかりと聞いています、志摩子様」

 

海鳴に到着するころには、聖はぐったりとしていた。

 

 




山百合メンバー、海鳴へ行く!
美姫 「当然、高町家へと行く訳だから…」
少なくとも、高町家メンバーとは顔合わせ〜。
美姫 「さてさて、どんな事になるのやら」
美姫、顔が笑ってるぞ。
美姫 「……だって〜」
いや、まあ、何となく言いたい事は分かる。
美姫 「でしょう。ああ〜、次回が楽しみ〜」
うんうん。それでは、次回も待ってます。



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