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昼休み、恭也は朝に志摩子から受け取ったお弁当を持って薔薇の館へ向かっていた。

 

校舎を出て中庭へ出ると、「にゃあ」と、どこからか猫の鳴き声が聞こえた。

 

声のする方へ歩いていくと、芝生の方から1匹のトラ猫がテコテコと歩いてきた。

 

トラ猫は恭也の足元でほお擦りすると「にゃあ」と鳴いた。

 

「ふむ・・・・・・人懐っこい猫だな」

 

恭也はお弁当を芝生に一度置くと、トラ猫を抱き上げた。

 

一瞬びくっと反応するが、恭也に敵意がないとわかったのかおとなしくなった。

 

「ところどころに傷跡があるな・・・・・・」

 

よくみると、毛が毟れているところなどがあり、決して毛並みはよくない。

 

首輪も無いことから、どうやら野良のようでリリアンとなれば猫にエサを与える人間もいるのだろう。

 

ここを餌場として住み着いてしまったのだろうか。

 

「ふむ・・・・・・」

 

恭也はポケットからお昼になる前に食べていた、食べかけのパンを袋から取り出すと、ちぎってトラ猫に差し出した。

 

トラ猫は、それが自分へのエサだとわかると恭也の手からそのまま食べ始めた。

 

夢中で食べていたのだが、トラ猫はピクっと反応すると、食べるのをやめて一直線に走り出す。

 

トラ猫の走った先には、驚いた顔をして恭也とトラ猫を見ている聖がいた。

 

「うそ・・・・・・ゴロンタが懐いてる」

 

ゴロンタ・・・・・・?恭也は一瞬その単語を頭の中で租借した。

 

恭也の顔をみて疑問を理解した聖は

 

「ああ、ゴロンタってのはこの子の名前。2年はメリーさん、1年はランチって呼んでるけど」

 

お前もせわしないね、と聖はゴロンタを抱えてそう言った。

 

「メリーさんやランチは知らないが、ゴロンタってつけたのは聖か」

 

「あれー、なんでわかったの?」

 

「そんなに立派なネーミングセンスを持ってるのは聖だけだろう」

 

「なーんか含みのある言い方だなぁ・・・・・・蓉子と同じ事言ってるし」

 

失礼だよねー、とゴロンタに向かっていうと理解しているのかしてないのか「なー」とゴロンタが鳴いた。

 

「でも、ゴロンタが人に懐いているのって珍しいんだよ。この子は私にしか懐かないんだ」

 

エサをもらうにはもらうが、1メートル以上離れないと食べないらしい。

 

元々、子猫のときにカラスに襲われたところを聖が助けてここに連れてきたらしい。

 

リリアンなら傷ついた子猫を可愛がりはしてもいじめることは無いだろうという配慮だった。

 

「それが理由か知らないけど、警戒心が強くて。恭也はきっと信頼されたんだね」

 

「・・・・・・そういえば、動物には好かれている気がする」

 

恭也は、さざなみ寮へ行ったときに体中に猫が張り付いたときのことを思い出した。

 

「きっとゴロンタにはゴロンタなりの価値観っていうのがあって、それに合う人に懐くのかもしれない」

 

「そうだろうな・・・・・・」

 

恭也は、陣内美緒のことを思い出していた。彼女は猫又で猫と会話が出来るのだが、よく猫の通訳をしてもらったことがあった。

 

そのとき、猫も立派に自分達と同じように意思や考えをもっていることを実感した。

 

聖はポケットから猫缶を取り出すと、ふたを開けてゴロンタの横に置いた。

 

ゴロンタは缶に顔を突っ込むようにして一心不乱に食べている。

 

恭也もお腹が空いたので、今日はここでお弁当を食べることにした。

 

聖もお弁当をあけて、恭也の隣で食べ始めた。

 

外で食べる食事は少し寒かったけど、心は温かかった。

 

 

 

 

「もしかして、志摩子って毎日お弁当作ってくれてるの?」

 

お弁当を食べ終えて、聖は食べかすで汚れているゴロンタの顔をハンカチで拭きながら聞いた。

 

「ああ。大変だから無理しなくてもいいぞ、と言ったんだが」

 

それを聞いた志摩子が泣きそうな顔で迷惑ですか?と言ったので、志摩子が困らないなら頼むと言うと、毎日欠かさず作ってくれている、と聖に言った。

 

「そっかー、恭也は志摩子には弱いみたいだね」

 

「そうかも知れないな。うちの家系は代々女性には弱いみたいなんだ」

 

とーさんはかーさんに頭が上がらなかったし、御神の家では琴絵姉さんにみんな弱かった。

 

静馬さんに至っては美沙斗さんに形無しだったことを思い出す。

 

「ふーん・・・・・・じゃあ恭也は結婚したら尻に敷かれるかもね」

 

「・・・・・・俺は、結婚しないと思う。俺を好きになる人もいないだろうしな」

 

そう言って立ち上がる。もうすぐ5時間目の予鈴が鳴るころだ。

 

鈍感だなぁと聖は思ったが、恭也の顔はとてもさびしそうだった。

 

まるで、どこかへ行ってしまう・・・・・・そう思うと、聖は恭也の制服の袖を掴んだ。

 

「・・・・・・どうしたんだ、聖?」

 

恭也の顔には、先ほどの表情は消えていた。

 

チャイムが鳴った。ふむ、と恭也は言うと

 

「予鈴か・・・・・・。教室に戻るか」

 

そう言って、先に歩き出した。

 

聖は恭也に置いていかれないよう、しっかりと恭也の腕を掴むと

 

「早くしないと間に合わないよ?」

 

と言って、恭也の手を取って駆け出した。

 

 

 

その手が、離れることがないように・・・・・・強く。

 

 

 

 




ゴロンタに懐かれた恭也。
美姫 「今回は、聖とのお話だったわね」
うんうん。今にも、何処かへと行ってしまいそうな雰囲気を持つ恭也と…。
美姫 「それに無意識に手を伸ばす聖」
いや〜、何ともいえないですな〜。
美姫 「うんうん。良いわよね〜」
次回はどんなお話が待っているのやら。
美姫 「それじゃあ、また次回を待ってますね♪」



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