聖が乗せていくという言葉を断った4人は、祐巳と祥子が小笠原家の車で。

 

志摩子と恭也はバスで帰った。

 

道すがら、恭也はさっきのオールバックの男のことを考えていた。

 

何か嫌な気配が男にはあった。

 

「恭也さん・・・・・・大丈夫ですか?」

 

志摩子は恭也の顔が曇っているのを見て、心配そうに覗き込んだ。

 

「いや、大丈夫だ。まあ、確かに2日遊び倒して多少は疲れたけどな」

 

こんな顔を志摩子に見られてはいけない、と恭也は頭を切り替え、志摩子と会話しながら家路についた。

 

 

 

家に戻ると恭也は早速携帯を取り出して、今日の出来事をリスティに報告した。

 

「・・・・・・ということがあったんですが」

 

「恭也・・・・・・。それよりも大変なことがわかったんだ」

 

リスティがいつもと違って重い口調で言うので、恭也もそれを聞くことにした。

 

「実はね・・・・・・誘拐事件の方に『龍』が関わってるらしい」

 

「なっ・・・・・・!」

 

『龍』・・・・・・忘れることが出来ない名前。

 

御神の一族を滅ぼし、フィアッセのコンサートをつぶそうとしたあの組織・・・・・・。

 

「『龍』は、香港国際警防隊の美沙斗のいる部隊にかなり痛手を被ったみたいでね・・・・・・。資金の流れが完全に止まったらしいんだ」

 

美沙斗はかつて、『龍』に復讐するため、情報集めの過程で『龍』に踊らされた。

 

今では恭也たちのおかげで香港国際警防隊に入隊し、『龍』殲滅部隊として一線で活躍している。

 

「それで、本国で活動できなくなり、日本で資金調達を始めたんだ・・・・・・。それが今回の誘拐事件さ」

 

リスティの話ではこうだった。

 

日本の貨幣価値はとても高く、警察機構も本国に比べて脆弱である。

 

さらに、性風俗の規制も厳しいため、闇ルートで金持ちに女を売り払って金を作り始めたのだそうだ。

 

女子高生というのは、日本ではとても高い付加価値となる。それがいいところの上玉となれば、身代金を要求するよりも数倍の値で売れる。

 

「リリアンというブランドは、その中でもトップクラスの付加価値だ。そのため、リリアンの生徒を狙ってくる可能性が出てくる・・・・・・。恭也、こっちでも人を手配して付近の警戒にあたるけど、君の方も十分注意して護衛に当たってくれ。・・・・・・それと、無理はしないでくれ」

 

「わかりました・・・・・・。リスティさんも気をつけて・・・・・・」

 

「こっちは大丈夫。明日には美沙斗も来てくれるしね」

 

美沙斗が来るなら確かに大丈夫だろう。

 

「まあ、そっちのチンピラの方は何人かかってきても相手じゃないだろうけど、お嬢ちゃん達が狙われたらまずいからなるべく固まってもらうようにしてもらって」

 

「わかりました。それでは・・・・・・」

 

恭也は電話を切る。それから武器を手に取り鍛錬に向かう。

 

今日の鍛錬は、いつにまして余念が無かった。

 

 

 

 

1/27

 

月曜日。昨日のこともあり、恭也は志摩子と一緒に登校していた。

 

さすがに、志摩子と一緒では走って通学というわけにはいかず、バスに乗っていた。

 

生徒たちは、志摩子と恭也が会話しているのを見て、がっくりと肩を落とす。

 

恭也とお近づきになりたい、と思っていた生徒は、隣の志摩子を見て勝ち目が無いと思ったからだ。

 

それほど、傍目から見てもお似合いの2人だった。

 

それに気がつかず、視線を送る数がいつもより少ないことに恭也は安心していた。

 

 

 

学校につくと、志摩子は恭也と昇降口が別なのでまたお昼に、と言って分かれた。

 

下駄箱から靴を取り出そうとふたを開けると、何かがひらひらと落ちてきた。

 

志摩子はなんだかわからず一瞬戸惑うが、『それ』がかつて形をなしていた状態を連想し、背筋が凍りついた。

 

 

 

 

 

『それ』は、無残なほどばらばらに刻まれた、白い薔薇だったのだ・・・・・・。

 

 

 

 

 

「どういうこと?」

 

女生徒は顔を顰めて詰問する。

 

「なんのことかしら・・・・・・?」

 

女生徒より少し背が高くすらっとした少女は、わからない、と言った様子でとぼける。

 

「・・・・・・これだけは言っておく。あの子に何かしたら私が許さないわ」

 

それだけ言うと、その少女を一瞥して通りすぎていった。

 

『アノコニナニカシタラ ワタシガ ユルサナイワ』

 

『ワタシガ ユルサナイワ』

 

『ワタシガ・・・・・・』

 

振り向くとその女生徒は、黒い髪を揺らして去っていた。

 

(何で・・・・・・私じゃなくてアイツを見るの・・・・・・あなタのたメニ・・・・・・ワタシハ)

 

 

 

ポケットからロザリオを出して握り締める・・・・・・

 

 

 

『私・・・・・・選挙に負けたら歌を学ぶためにリリアンを去るの』

 

 

 

(嫌っ!!お願い、行かないで!!)

 

 

 

『いままでありがとう。もうリリアンには悔いがないわ・・・・・・』

 

 

 

(嘘でしょ!?本当は悔しいんじゃないの!)

 

 

 

『志摩子が、白薔薇さまの妹に一番ふさわしいわ』

 

 

 

(そんなこと言わないで!あんな・・・・・・あんな偽善者なんか・・・・・・!!)

 

 

 

 

 

 

それは偶然だった。志摩子がバスを降りるところを見かけたのだが、周りのリリアンの生徒がいなくなるまでその場にたたずんでいた。

 

それから、あたりを気にしてから歩き始めた。

 

不審に思った私は、志摩子を快く思っていなかったのもあって、あとをつけた。

 

そうしたら・・・・・・『小寓寺』と書かれた看板の先にある家に志摩子は入っていった。

 

 

 

 

 

マリア様だの天使だのもてはやされた裏にはなんてことない、人を欺くだけの詐欺師だ。

 

そんな女が静を差し置いて白薔薇さまだなんで許されない。

 

それに・・・・・・静を・・・・・・私の静を・・・・・・

 

追い出す原因を作っておいてその上静までたぶらかして・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・静・・・・・・私が目を覚ましてあげるからね」

 

そうつぶやくと、そのまま昇降口へ向かった。

 

 

 

ロザリオを強く握り締めていた手のひらは、傷になっていて・・・・・・

 

少女のロザリオは血で朱く染まっていた・・・・・・




志摩子を狙う理由は、静?
美姫 「徐々に明らかになっていく様々な謎」
しかし、同時にそれは事態をも進めていく。
美姫 「一体、この先には何が!?」
次回も目が離せない!



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