祥子の車が一つの家の前・・・・・・いや、それは家と表現していいのかわからないが、門の前で止まる。

 

程なくして門が開かれ、そのまま藤代の運転する車も邸宅に入っていく。

 

正門からそのままついていくと、駐車場がありそこに車を停めた。

 

「まさか、こんな立派な家だとは思わなかった」

 

赤星が唖然としている。

 

「悔しいけど、駐車場の方が私の家より広いわ・・・・・・」

 

ため息交じりに藤代がつぶやく。

 

恭也は、護衛を経験したことであまり驚きはしなかったが、それでも広いと思った。

 

「ほらほら、呆けてないで行くよ」

 

そう聖が促すと、3人は慌てて聖に着いていく。

 

志摩子は、恭也が歩き出すのにあわせて、自分も一緒に歩き始めた。

 

祥子たちが一足早く玄関に向かっていたのだが、まず祐巳がある物体に気がつき足を止める。

 

祐巳の足が止まったことに気がついた蓉子が、祐巳の視線の先を見て顔を顰めた。

 

2人の様子がおかしいことに気がついた聖は、その視線の先を見ると

 

「げっ!」

 

リリアンの生徒らしからぬ声を上げた聖は

 

「最悪・・・・・・ホームパーティーということで気がつくべきだった」

 

「え、何、どうしたの?」

 

と、藤代が聖の言葉を聞いて問い掛けた。

 

聖が指を指すと、その先には真っ赤なオープンカーが太陽の光に反射して光っていた。

 

「うお、オープンカーじゃないか。かっこいいな〜」

 

赤星が車を見て、そう言った。

 

「ああ、乗ってきた本人に言わないほうがいいよ。面倒なことになるから」

 

こめかみを抑えながら言う聖に、いつもの聖らしくないと思いながらも、先に行った祥子たちを見失わないように着いていった。

 

恭也はまだ固まったままの祐巳の手を取って「置いていかれますよ」と耳元で囁くと、

 

祐巳は文字通り飛び上がって驚き、次に顔を真っ赤にして「は、はい」と言って歩き始めた。

 

玄関前に行くと、既に開いている玄関から聖の声が響いていた。

 

なにやら言い争っているようなのだが、相手は男性の声。それと、それをなだめる声も男性。

 

どちらも赤星の声でないことに恭也は疑問を抱き、中に入ると

 

 

すごくさわやかで、ハンサムな青年と、それに食って掛かる聖と

 

2人の間でオロオロしている一人の少年が・・・・・・ん?この男の子どこかで・・・・・・?

 

「祐麒!?」

 

恭也の後ろにいた祐巳が声を上げた。

 

「ああ、祐巳か・・・・・・」

 

その少年が心底疲れたような顔をして、こっちを向いていた。

 

「祐巳頼む、聖さんを止めてくれ。俺は柏木先輩をなんとかするから」

 

そういうと、お互いに2人を引き離して事態を収拾した。

 

 

 

小笠原家のリビングに一度集まって席に着く。

 

知らない顔同士が互いに自己紹介をしたあと、少しの沈黙。

 

すると、祐巳がおもむろに口を開いた。

 

「でもなんで祐麒がここにいるの?」

 

「それが、帰りのバスが事故かなんかで運行してなかったんだ。そうしたら、先輩に家まで送ってやるから乗って、と言われたんだ。そうしたら・・・・・・」

 

そういって祐麒は柏木をにらんだ。その視線に肩をすくめながら

 

「ユキチ、確かに僕は家まで送るとは言ったが、一言も君の家とは言ってないじゃないか。それに、今日送り返すとも僕は言ってない」

 

「おい、柏木。まさか貴様泊まるつもりなのか?」

 

聖がものすごく嫌そうに柏木に言った。

 

「やれやれ、リリアンのお嬢様とあろうものがなんて言葉遣いだ。それに僕が泊まってなんの問題がある。女性に手を出さないことは君たちも知っているじゃないか」

 

「ああ、だからこそ心配なんだ。お前が勇吾くんや恭也くんに手を出さないかがな!」

 

「へぇ、まさか君からそんな言葉が出るとは思わなかったな」

 

「少なくとも、お前より人の気持ちがわかるつもりだ」

 

お互いに冷ややかな言葉をぶつけ合う二人に対して、祐麒は小さくなって

 

「・・・・・・申し訳ございません」と本当にすまなさそうにいった。

 

「ああ、祐麒くんは全然悪くないからそんなにかしこまらなくても大丈夫よ」

 

と、一転して聖は祐麒に笑顔を向けると悪いのはアイツだから、ときつい視線を柏木に送った。

 

「ふむ、確かに我々のせいでユキチに迷惑が掛かるのは喜ばしくない。ここは一つ休戦にしようじゃないか、白薔薇さま」

 

「お前に白薔薇さまと呼ばれるのは虫唾が走るが・・・・・・休戦には賛成だ」

 

「で・・・・・・話がついたところでそろそろよろしいかしら?」

 

祥子は、2人の行動に慣れた様子で本題に入っていく。

 

パーティーは6時から行うことにして、それまでは各自自由にしてくださいとのこと。

 

部屋割りは、紅・黄の薔薇部屋に、2人だけの白薔薇ファミリーに藤代が。

 

男は最初、恭也・赤星と祐麒・柏木で分けることになったのだが、祐麒が断固拒否したため、

 

4人で一つの部屋を使うことになった。

 

恭也も一度、割り当てられた部屋に荷物を置きに行くことにした。

 

部屋に入って広さを確認すると、4人が泊まるには十分すぎる広さがあった。

 

荷物を置いてこれからどうしようか、と思っていると赤星が

 

「高町、久々にちょっとやらないか?」

 

と、木刀を片手に赤星が声をかけてきた。

 

一人で鍛錬をしてて少し打ち合いをしたいと思っていた恭也はそれに頷き、祥子に許可を取って外に出た。

 

なるべく他の人に見られないような場所を見つけて、2人は対峙する。

 

「それじゃ・・・・・・いくぜっ!」

 

言い終わらないうちに、赤星は全力で突っ込んできた。

 

恭也もそれに対し二刀を構えると、赤星の体重を乗せた一撃が恭也の脳天めがけて振り下ろされる。

 

それを二刀で受け止めると

 

「おい、お前は俺を殺す気か・・・・・・当たったら頭割れてしまうぞ」

 

「当たれば・・・・・・だろ?」

 

赤星の返答に恭也はニヤっと笑い、すかさず足払いをかけた。

 

その足払いを後ろに引いて交わす。ジャンプをすると、次の攻撃に対応できないからだ。

 

引いた赤星に対し、即座に距離を詰めると恭也は右の刀をわき腹めがけて突き出す。

 

それを体半分ひねって交わし、背を見せる形になった恭也に木刀を振り下ろす。

 

赤星の動きを察知していた恭也は赤星を見ずにバックステップで再び赤星の懐にもぐりこむと、

 

今度は後ろ向きのまま赤星の首めがけて左の刀を薙ぐ。

 

上体を逸らして交わすと、恭也はそのまま正面を向くがまだ体勢が整っていなかった。

 

(もらった!)

 

そのまま恭也を突こうと右足をふんばろうとして・・・・・・体が浮いていた。

 

「なっ!」

 

体勢を崩しているようにみせていたのは恭也の罠で、攻撃に転じようとした赤星の軸足を右足で刈ったのだ。

 

浮いた体勢で恭也に詰められないように木刀を振るおうとするが、視界にはすでに恭也の姿は無く・・・・・・

 

倒れた瞬間、背後から刀を突きつけられて・・・・・・

 

「まいった」

 

赤星は、自分の敗北を宣言した。

 

 

 

 

「剣で受けようとしないで、身体をさばいていくのはうまくなったな」

 

赤星は、恭也の攻撃をほとんどかわした。

 

恭也も無意識のうちに手加減はあったかもしれないが、しっかりと剣線は見切っていたということだろう。

 

「だが、体勢が整わない状態で無理な攻撃をすることが多いな。牽制は確かに必要だが、それで体勢をさらに悪くしては元も子もないぞ」

 

「う〜ん、やっぱり高町は強いな。こっちにあわせて闘ってもまるで歯が立たない」

 

「これでも毎日やってるからな。いくら赤星でも負けるわけにはいかない」

 

30分ほど打ち合って、赤星は結局一本も取れなかった。

 

「それに、お前の攻撃が当たったら俺の命に関わる。手加減無しに打ち込んでくるからな」

 

恭也の手は、少ししびれていた。単純なパワーだけなら美由希をはるかに凌ぐどころか、恭也ですら超えるかも知れない。

 

「ははは、お前相手にくらいしか、全力で打ち込めないからな。何事も無かったんだから気にするな」

 

「まあいいけどな」

 

 

 

 

 

 

そのころ、恭也たちの部屋では・・・・・・

 

「ふっふっふ・・・・・・柏木と祐麒くんが出て行って今は誰もいない・・・・・・」

 

聖が、恭也たちの部屋に忍び込んでいた。

 

「あれは柏木の荷物だから無視・・・・・・祐麒君の鞄は・・・・・・可哀想だからあさらないでおくか」

 

そういうと、今度は赤星のカバンを見つけてチャックを開けた。

 

「次は赤星くん・・・・・・んー、着替えとかが普通に入っているだけか・・・・・・お?これは・・・・・・」

 

横のチャックに、写真が入っているのを見て取り出した。

 

「ほ〜、これは黄薔薇ファミリーとの写真じゃないですか。一体誰が本命なんでしょーね」

 

声を押し殺しながら聖が笑う。

 

「さて、今日のメインはやっぱこのカバンよね〜」

 

恭也のカバンをみて、聖はニヤニヤする。

 

「ずいぶんと大きなカバンだね、もしかして面白いものが入っているかも」

 

チャックを開けて中を見ると、聖は固まった。

 

「・・・・・・月間盆栽に・・・・・・これは釣りの本。ある意味面白いものだけどねぇ」

 

聖は苦笑したが、次に見つけたものに驚いて固まった。

 

「え・・・・・・これは・・・・・・刀?それと・・・・・・なんかワイヤーも入ってる」

 

カバンの底に、少し大きめの封筒が入っていた。

 

「なんだろ・・・・・・」

 

聖は、開けてはいけないんじゃないか、とは思いながらもつい封筒を開けてしまう。

 

「・・・・・・どういうこと?」

 

 

 

 

封筒に入っていたものは、自分達の名簿と一緒に依頼書と書かれた用紙だった。

 

 




聖の悪戯が思いもがけない事態に。
美姫 「ああ、一体、どうなるのかしら」
次回が、次回が、非常に気になるぅぅぅ〜。
美姫 「果たして、聖はどんな行動に出るのか!?」
次回も楽しみに待ってます。
美姫 「ではでは〜」



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