「そういえば、名前を聞いてなかったね。私は佐藤聖」

 

「あ、ごめん。俺は赤星勇吾。こっちは藤代由紀で・・・」

 

「高町恭也君、だね」

 

「あれ?なんで俺の名前を知ってるんですか?」

 

聖と歩いているうちに、自己紹介がまだだったことに気が付き互いに紹介する。

 

自分の名前だけ知っていた聖に恭也が少し驚くと、聖は笑いながら

 

「だって、私あなたと同じクラスだよ?」

 

・・・気が付かなかった。

 

「・・・すみません」

 

「あー、いーのいーの。あれだけ囲まれたらそんな余裕無いって。

それよりも、敬語使わないで欲しいな。なんか堅っ苦しくて苦手なのよね」

 

「構わないですが・・・だけど言葉遣いはあまりよくないぞ?」

 

「うん、その方が話し易い。よろしくね、恭也くん」

 

「ああ、よろしく。聖さん」

 

「・・・で、遠巻きに伺っているお二人さん、どうしたのかしら?」

 

恭也と聖の会話中、ずっと聞き耳を立てていた2人に聖が視線を向けると、肩をすくめながら歩いてきた。

 

「んー、なんだか邪魔しちゃ悪いと思って。」

 

「江利子・・・聞き耳立てる方がよっぽど悪いんじゃなくて?」

 

「あら、それを言うなら蓉子だって私と一緒に眺めてたじゃない」

 

「そうだったかしら?」

 

まるで悪びれる様子もない2人を加えて、3人には見慣れた、残る3人は初めて見る建物の前に来た。

 

「えっと、ここは薔薇の館っていうところ。とりあえず、入って入って。」

 

中に入り、ビスケット扉を開けて中に入るように3人を促す。

 

部屋の中には、5人の女性がすでにいて、3薔薇様と連れられた3人を見て

 

「え・・・?男の人?」

 

恭也と赤星を見た令が皆の言葉を代表するような形でつぶやいた。

 

「あー、彼らは今日からリリアンに留学することになった人たち」

 

「それで・・・その方々をなぜこの薔薇の館へ連れてらっしゃったのかしら?」

 

聖の言葉に、不機嫌を隠さない様子で祥子が質問した。

 

「それがねぇ・・・クラスの女の子がみんなで騒いじゃってね〜、恭也くんと勇吾くんが逃げ場を失ってたから連れてきたのよ」

 

聖の説明に一同は納得した。

 

「ということだから、祥子もいいわね?」

 

蓉子の言葉に祥子はしぶしぶながら了解した。

 

 

 

「それでは・・・お茶をお持ちしますね。」

 

祐巳が席を立ち、それに志摩子が一緒についていく。

 

蓉子達がそれぞれの席に着くと、空いた席に座るよう促され3人も席に着く。

 

志摩子と祐巳が席に着いたのを見計らって、お互いに自己紹介を始める。

 

「赤星勇吾です。剣道部に所属していました」

 

その言葉に令と由乃が反応する。

 

「えっ!まさか・・・今年のインターハイを制覇したあの・・・?」

 

「あ、はい。一応インターハイで優勝した赤星です」

 

赤星は照れながら2人に答えた。

 

「じ・・・じゃあもしかして、藤代さんも・・・?」

 

驚いた表情のまま、今度は藤代の方を向くと

 

「はい、女子の部で優勝した藤代由紀です」

 

舌をちろっと出しながら、やっぱり恥ずかしそうに笑う。

 

2人を見て目を輝かせている令に、ちょっと不満顔の由乃だった。

 

 

 

「それにしても、恭也さまと勇吾さまはリリアンになぜ留学されたのですか?」

 

西洋人形のような女性−藤堂志摩子−が二人に質問した。

 

恭也と赤星は、志摩子の質問よりも質問のときの口調に驚いた。

 

「え・・・えっと、『さま』っていうのは・・・?」

 

その言葉に祥子が

 

「リリアンでは、上級生のことは様、スールである直接の姉のみお姉さまと呼ぶ制度があります」

 

「そうだったんですか・・・」

 

改めてお嬢様学校だということを認識する。

 

「それで、先ほどの志摩子さんへの回答なのですが・・・正直わからないんですよ」

 

恭也の答えに、一同はえ?っという顔をする。

 

「前の学校で校長に聞いたのですが、なんでも学園長からの直接の指名だったとかで・・・。確かに赤星と藤代は剣道で日本一になった実績がありますからわかるのですが・・・。なんで俺まで一緒に指名されたかは全くわからないですね」

 

「あはは、案外顔で選んだんじゃないの〜」

 

「聖!」

 

聖が冗談半分で言うと、それを蓉子がたしなめた。

 

だが、恭也はその言葉に対してまじめな顔をして

 

「う〜ん・・・それだとなんで俺なのか余計にわからないですね」

 

恭也の言葉に唖然としていると

 

「・・・こいつはそういう奴なんです」

 

赤星がぼそっとつぶやき、全員がその意味を理解したのだった。

 

 

 

放課後、恭也が帰る準備をしていると

 

「恭也さん、あのどちらにお住まいでしょうか」

 

「方向一緒でしたら私と・・・」

 

「まだ学校のこと知らないでしょうから、私が・・・」

 

「この近くにおいしい喫茶店がありまして・・・」

 

「あら、立ち寄り許可をもらわないといけないですわ。だから私といっしょに・・・」

 

昼のときよりさらに数が増え、さすがの恭也もたじたじになっていると

 

「恭也くん、なんか先生が君のこと呼んでたよ。至急来るように、だってさ」

 

聖の言葉に恭也をとり囲んでいた生徒は、恭也に道を開けて「早く行かれた方がよろしいですわ」と促す。

 

荷物を持って職員室へ向かおうとすると、先に外に出ていた聖がウィンクをした。

 

意味を察した恭也は、聖の耳元でありがとう、と囁くと聖が突然固まった。

 

「聖さん、どうかしたのか・・・顔が赤いぞ?」

 

聖は、恭也の言葉にはっと我に返ると

 

「な・・・なんでもない!」

 

そういって、恭也の前をずんずん歩いて行って

 

「薔薇の館に来るよね。私、先に行ってるから」

 

そう言い残して、早足で階段を駆け下りていった。

 

恭也は何がなんだかわからないようで首をひねっていた。

 

 

 

同じく、クラスから蓉子の配慮で抜け出した赤星と蓉子はそれをみて

 

「聖・・・落ちたわね」

 

「ああ・・・。でも高町の様子だと・・・気がついてないだろうな」

 

赤星は少しため息を吐くが、蓉子とほほえましく2人を見ているのだった。

 




山百合会との顔見せも済み、一日も終わりを告げる〜。
美姫 「でも、何で恭也が選ばれたのかというのは、まだ分からないわね」
うんうん。この先、どんな展開を見せてくれるのか。
美姫 「早くも続きを期待する気持ちで一杯ね」
おう! さて、それじゃあ、続きを読もうか。
美姫 「勿論よ!」



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